時は今



 智が四季に今話していたことを簡単に説明した。

「四季に例の曲のピアノソロは負担じゃないかって話してたんだよ。その辺どうなの?」

「ああ…。弾きたいと思ってはいるけどね。まだ練習し始めたばかりだから何とも言えない」

 四季はそう言って口をつぐんでしまった。

 弾きたい気持ちがあって努力もしている人間に、自分から弾けないかもしれないと言わせるのは酷なような気がして由貴が聞いた。

「今の身体の状態で最長何分くらい四季の本来の弾き方が出来る?超絶技巧曲で」

 具体的な聞き方をされて四季は考え込んだ。

「どれくらいだろう。昨日弾いていたグリーグなら1楽章は弾けると思う。十五分くらいかな」

 弾いている途中で指の感覚が無くなってくるのが怖いんだよね、と四季は言った。

「感覚が無くなっても響かせたい音を正確に出せるかと問われたら、答えられない。──たぶん倒れる前の手の状態にまで戻せてないからだと思うんだけど」

「ハノンの教本は?一時間弾いていたけど」

「あれは基礎だから大丈夫。難度によっても通して弾ける時間は変わってくると思う」

「智の提案なんだけど、ピアノを分けてみるのは?第1ピアノと第2ピアノで。それが可能なら、たとえば俺が第2ピアノで四季のフォローをする」

「ピアノ2台…可能ならいい演奏出来ると思うけど。オーケストラもあるんだよね。舞台でのピアノの配置が難しくならないかが心配なんだけど」

 四季の言うようにピアノとオーケストラの協奏曲というと、普通ピアノは1台である。

 ピアノ2台も不可能ではないだろうが、指揮者は中心に立つため指揮者との位置関係のバランスが難しくなってくるのだ。

 ややして涼が「木漏れ日や小鳥のさえずりは上から降ってくるよ」と言った。

「2階席。2階席からもピアノの音が広がったら綺麗だと思う」



< 164 / 601 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop