時は今



 涼の言葉に四季が訊いた。

「それ、いいと思う。涼ちゃんのイメージはそうなの?そういうふうに弾いて欲しい?」

 涼は少し考えて答える。

「うん。涼はそういう森をイメージして編曲したの。でも四季くんが楽譜を見て四季くんのイメージした森があるなら、四季くんの弾きたい森でいいと思う」

「そう。──忍は?」

 急に四季はそれまで沈黙していた忍にも問いかけた。忍は少し戸惑ったようだったが静かに語り始めた。

「私も、四季がイメージした森ならいいと思う。というより私が四季にお願いしたかったのは、森を生き返らせたかったからなの」

「生き返らせたかった?」

「うん。私がこの森を再現しようとすると、時が止まってしまうの。桜沢静和の音のまま時が止まっていて、そこから抜け出せてない。涼に『忍ちゃんのヴァイオリンはお兄ちゃんの音聴いているみたい』って言われて気づいて…。だから私では『森は生きている』のヴァイオリンは弾けないの。揺葉忍の表現したい音ではなくて、桜沢静和の音になってしまうから」

 涼が忍の言葉に続けるように言った。

「涼も、この曲を弾いていると時が止まってしまう感じがするの。忍ちゃんにヴァイオリン弾いてもらって涼がピアノを弾いて合わせてみたけど、ふたりで『この音じゃダメだね』って…。音楽は楽譜通りに弾けるだけじゃダメなの。それを越える何かがないと」

 涼と忍の理由を聴いて由貴は腑に落ちたように四季を見た。

「四季の時は止まっていないからね。越える何か、四季は持っていると思うし」



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