時は今



「本当は教室に通って習うのが正しいんだろうけど。でも僕はバレエは最初からやめておくように言われてたから。本とかで勉強しても大丈夫だと思うよ。ただ無理な仕方をすると身体を痛めるらしいから、それは気をつけて」

 吉野さんが興味あるなら本とCD貸そうか?と四季は言った。

「え?いいの?」

「うん。バレエ興味あるんだ」

「そうだなぁ。演劇やってると、こんな身体の動きや表現が出来たらいいのになぁとかさ。ダンスにも興味ある」

 ところで、と智は尋ねる。

「私に話って?」

「うん…。吉野さん、忍の好きな人ってわかる?」

「──…」

 智が一瞬歩みを止めた。四季を見上げる。

「ううん。忍からはそんな話、聞いてない」

「……」

「何で?」

「忍がつらそうだったから」

 吉野さんは気づいたことない?と四季に問われ、智は遠くに目をやった。

「そうかな?と思うことがあっても私は言い出さないようにしてる。人の心の中のことだから。言わないってことはそっとしてほしいことなのかもしれないし」

「そう思う、ということは、気づいたことがあるんだよね」

「何が言いたいの?」

「僕はそっとしておけなかったから」

「──何に気づいたの」

「由貴。忍の好きな人が由貴だと気づいてしまって、忍に『違う?』って訊いてしまった」

 廃棄物の集積所まで来て箱を降ろす。智が「何でそんなこと忍に聞くんだよ」と怒った口調で言った。

「忍が口に出したがらないこと聞いて、忍がつらくなるとは思わなかったのか?」



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