時は今
四季がいくぶん和らいだ表情になる。
「…ありがとう」
「何で忍なの?まあ、忍は魅力的な女ではあるけどさ。私の目から見ても。でも忍は大変だぜ。難攻不落の高嶺の花って言うかさ。涼みたいなとこあって、好きな奴以外にはなかなか心を許さないっていうか」
「ああ、そんな感じする」
「わかってんのに好きなんだ?」
「そうだね。──でも…」
「でも?」
「忍は『森は生きている』の楽譜を僕に持って来てくれたから。それだけでも僕には嬉しいことだったし」
「──わっかんねぇ…」
智は首を捻った。
「もうさ、いっそ、俺がお前を幸せにしてやるから俺の女になれ!ぐれーの気持ちってねぇの?だいたい四季ってそこまで身の程わきまえてなくちゃいけないほど、出来のわるい男子ってわけでもねーだろ。むしろ堂々と『桜沢静和が何?』な勢いで忍をかっさらってってもいいレベルだろ。何でそうならねーの?」
四季は思わず笑ってしまった。
「出来ないよ。僕には。感情を押しつける一方通行なやり方では忍の心を余計に遠ざけてしまうだけだよ。よくわからないけど忍の心を癒すものはそういうものではないと思う」
「ふーん…。まぁそれで四季がつらくならねーんならいいけど」
「──。忍は『私は由貴も涼も大切だから、ふたりの邪魔はしたくない』って言ってた」
「あーはいはい、そうですか。忍といい四季といい、お前ら何でそーなわけ!?うぁー話聞いてる方がじれったいわ!!」
「ごめん」
「いーけどよ!私は神経頑丈だし!はー怒鳴ったらスッキリした」
「吉野さん面白い」
「おかげさまでー」
忍と四季が怒鳴れない分は私が代わりに怒鳴ったるわ、と智はニッと笑った。
吉野さんと話をしたら何だか僕もスッキリした、と四季も清々しい表情になる。
「そうだしょ?たまに話すといいぜよ。吉野智、お話大好きなんで、いつでもどうぞー」
「吉野さんが涼ちゃんと忍の友達っていうのも、すごくいいバランスだと思う」
「お。嬉しいこと言うねぇ。我ながらその通りだと思う今日この頃」