時は今
「だから言ったでしょう?危ないからやめてって!」
女子にぴしゃりと叱られ、ふざけていた男子たちはしゅんとなった。
「揺葉さん、すみませんでした」
譜面台を片付け始める。
「ゆりりん、四季くん、大丈夫?」
望月杏たちが心配そうに降りてきた。忍は笑顔をつくる。
「大丈夫」
「──大丈夫じゃないよ、忍は」
四季は間近に見ていたのだろう、怒ったように言う。
「腕、傷めてるよ。今の」
「──四季」
怒らないで、と忍は困ったように言う。四季は望月杏たちの方を見ると「忍、保健室に連れて行っていい?」と言った。
「う…うん」
美歌の方は普段見たことのない四季の表情に言葉を失っていた。
(お兄ちゃんがこんなに怒るって──)
それもただの怒りではなく、相手を想っているからくる種の怒りだ。
それに。
(お兄ちゃん、この人のこと『忍』って呼んでた)
ふつうそれほど親しくなければ女の子のことを名前なんかでは呼ばないだろう。
美歌の中では言い様のない感情が埋め尽くしていた。
(たぶん…この人なんだ)
本当に綺麗だ。見た目じゃない。中身が綺麗な人だ。
お兄ちゃんが好きになれそうな人が、もっと罵倒出来るような人なら良かった。
お兄ちゃんの手を心配して、庇ってくれるような人じゃなければ良かった。
だってこんなふうに、お兄ちゃんを大事にしてくれるような人なら、あなたなんかお兄ちゃんと釣り合うような人じゃないって言えないじゃない──。