時は今



「打撲だと思うけど…。かなり痛むようならお医者さんに診てもらった方がいいわね」

 手当てをしながら保健医の内村菜摘はそう言った。

 教室に戻りながら忍はずっと気になっていたのか、四季のそばにいる美歌を見て、四季に尋ねる。

「四季…そちらの方は?」

「美歌。僕の妹。今日は少し用があって」

「綾川美歌です」

 美歌がお辞儀をした。忍がふわりと笑う。

「揺葉忍です。初めまして。──さっきは驚かせてごめんなさい」

 美歌の中では突然の出来事と、忍という存在に対する思いとでぐるぐるになっていた。

 忍は気遣うように言った。

「四季。妹さんを待たせたら悪いわ。私は大丈夫だから。ね?」

「…とう」

 小さな声が美歌から発された。

「──お兄ちゃんを助けてくれてありがとう」

 それまで張りつめていたのか、涙がこぼれ落ちた。

 怖かったのだ。

 本当に怖かったのだ。

 目の前で四季が倒れて、このまま目を醒まさなくなるのではないかという考えが、あの瞬間全身を支配した。

 短く紡ぎ出された言葉。

 忍には美歌の気持ちは痛いほどわかった。突然の事故で一瞬にして大切な人を失う恐怖。

 美歌の髪に手をのべると抱き寄せた。

「──うん。良かったね」

 美歌はよくわからなくなってしまった気持ちで泣いた。

 涙がこの感情を洗い流して欲しいと願った。

 全部。全部──。



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