時は今
早瀬は四季の頭を撫でた。
「あんたがあたしと祈のとこに来てくれて良かったよ。ありがとね」
「──」
四季は早瀬を見つめる。「何だい?」と早瀬が言った。
「──ごめん」
四季の口からこぼれたのは、その一言だった。
「ごめんって何が?」
「死なせてって言ったこと」
『もういい。死なせて』
倒れてから何日後だろうか?言った言葉だった。
早瀬はふっと笑った。
「生きてりゃ、死にたくなることの1つや2つあるだろ。あたしは気にしてないよ」
「──」
「あんたにはあんたの生き方がある。あんたの人生だ。自分で決めな」
四季は「うん」と短く答える。
「その言葉を言ったことが悲しませなかったか、気になっていただけ。ありがとう」
早瀬は少し首を傾げて、考えるように言った。
「別に言ってもいいんだよ。特にあんたはね。小さい頃からそうだから。身体がつらいのに、何もかも抱え込んでしまうんじゃ、心の行き場までなくしちまう。そんなんじゃ続かない。ま、それでも、後になってからでもこうして言ってくれるのは、素直に育ってくれたとは思うけど」
四季は早瀬がそう言う感覚も不思議なのか、その言葉に耳を傾ける。早瀬は愛しく思っているような、持て余すような微妙な表情を浮かべた。
「あんたは純粋だねぇ。祈に似たのかね。見ていると心がしゃんとする時があるよ」
「そうなの」
「そうだよ。大人は嘘つきだよ。優しいのもほどほどにしとかないと、世の中あんたみたいな人間ばかりじゃないんだから」
──と、ふと気になったように早瀬が訊いた。
「そういえば、忍って言ったっけ?あんた、あの子のことが好きなの」
「──うん」
「え?つき合ってるの?」
「ううん」
早瀬は「ふぅん」と言ったきりそれ以上詮索はしてこなかった。
「──あの子、いい子だね」
「え?」
「あんたに色目を使ってない。あたしや祈にも。あんたを家柄で判断して近づいて来るような女じゃない。大事にしな」