時は今
スープの入ったカップを両手で温めていると、忍は少し気分が落ち着いてきた。
まともではないことが立て続けに起こりすぎて、さっきは神経が飛んでしまっていた。
硝子が忍のそばに来て座った。
「お父さまは?」と忍は聞いた。静和と涼の父親のことだ。硝子は「病院に」と短く答える。
「私も行きたかったのだけれど、家に電話をかけてくる人がいるかもしれないから、私は今日はここで待機。帰る時に病院に寄ることにするわ。忍ちゃんはどうする?病院に行くのなら送らせるけど」
「……」
忍はまだ震えていた。心が。心の芯が震えて不安のおさまりがつかない。
「──硝子さんと一緒に行っていいですか」
小さな声でやっとそう絞り出すと、硝子は「そうね」と言ってくれた。
硝子は忍を安心させるように髪を撫でてくれる。
「少しね…様子が変なの。変な人間がうろついているみたい。事故と関わりがあるのか、たぶんないとは思うんだけど。警備員を配置させているんだけど、忍ちゃん、大丈夫だった?」
──人が殺されました。
忍は言葉にすることも怖くて出来ず、スープを見つめた。
あの運転手には家族は。事情聴取があるのだろうか。──考えただけで神経が参ってきてしまいそうだった。