時は今



「──」

 各クラスに配布する文化祭の印刷物をホチキスで止めていた桜沢涼が顔をあげた。

(忍ちゃんの歌──忍ちゃんではない人が歌ってる)

 耳に残る印象的な歌だった。

「最近、音楽科、熱が入ってるよね。会長があんなになってるって」

 断れなかったの?と児玉蒼が涼に訊く。涼は言いにくそうに答える。

「──涼も会長に、会長のピアノ聴きたいってお願いしちゃったの。四季くんのピアノなら会長の音がいいって思ったから」

「あー…。まあ四季に合わせられる腕の持ち主は限られているからな」

 菊水未央と岩永めぐみが「会長に負担かからないように、出来ることは私たちでやればいいよ」と言った。

「生徒会は雑用が多いのは当たり前なんだし」

「会長はいるだけでもいいのよ。もともと綾川くん、好きで生徒会に入ったわけでもないんだから。桜沢さんだってそうだし」

 そうなのである。由貴はもともと人前に立つのを好むタイプではない。

 ただこういった雑用を黙って片づけていてくれるため、先生たちからの評価が高いのである。

 涼が生徒会に入ったのも由貴がひとりで雑用を抱え込んでしまわないかという心配からだった。

 長野悠が「綾川四季とは別の意味で、由貴はモテるよね」と言った。

「先生たちからの信頼が高い。問題を起こさないから。前任会長が弾けた人だったから、それはそれでいい面もあったらしいけど、先生たちも忙しいから手に余るレベルの人だと、しんどくなってくる。その点由貴は先生たちが楽出来るからいいんだよ」

 長野も会長向いてそうだけど、と児玉蒼が言う。

「綾川ほど抱えこまないし」

「俺?どうだろう」

 岩永めぐみが考え込む。

「本田くんみたいな人がひとり、生徒会に入っていると良かったのかなぁ。本田くん『先生、俺、生徒会長立候補していいですかー』って言ってたじゃない」

「ああ、綾川先生は他の先生に話してみたらしいけど却下されたって」

「何した、本田ー」

「でも本田が入ってたら入ってたで由貴の苦労が増えるだけのような気もするけど」

 長野悠の冷静な分析に、生徒会役員全員が「そうだね」という表情になった。

 ──生徒をまとめるのも楽ではない。



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