時は今



 4月。入学式。

 桜が舞っていた。

 花びらの舞う中に、無事であって欲しいと願った少女の姿があった。

 けれども、その表情には初めて会った時の甘やかさは何処にもなかった。

 感情をなくした人形のように。





「新入生代表挨拶してた奴、いい奴そうだったな」

 吉野智がそう言いながら1年A組の時間割を見ている。とりあえず親友の涼と同じクラスになれてほっとしていた。

 入試首席だった涼が本当は新入生代表挨拶をすることになっていたのだが、涼に不慮の事故があり、きちんと挨拶出来るかがわからなくなったために、それを次席の綾川由貴にお願いする形になったのだ。

 涼は「うん」と抑揚のない声で答える。

「楽譜拾ってくれた」

「楽譜って…。何?綾川由貴って奴、知ってるのか?」

「うん。春休みに涼が学校に来ていたら、下見しに来てたの」

 それが事故の前日。涼は思い出して沈んだ気分になった。

 思い出したくなくても、思い出してしまう。しばらくこの事故はついて回るだろう。



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