時は今
涼たちとは少し離れたところで女子の歓声があがる。教室に綾川由貴が入って来たのだ。
その容姿で代表挨拶をしたらそうなるだろう。すでに目立つ存在になっている。
(かっこいい人ねぇ)
品定めをして騒ぐのは性別問わず本能なのだろうか。
吉野智はその一般的な本能はあまりないらしく、イケメンを見てもそんなにときめくことはない。
桜沢涼もそういった点では智と共通していて、涼が男子のことで騒ぐのを智は見たことがない。
もっとも涼の場合は、父親と兄の静和以外は視界に入っていないような感があるから、たんにそういう面で幼いのかという気もするが。
「涼さんはカッコイイ男子に興味はございませんか?」
何気なく智が聞く。
時間割に目を通していた涼は、騒いでいる女子とか騒がれている由貴とか、そんな雑音も雑音として入っていなかったらしい。
「え?」
…だめだこりゃ。
「席について」
ピシリとグレーのスーツを着こなした女性が教室に入ってくる。
白王の中等科から高等科に上がった生徒ならわかる。社会科教諭の前田小依。
歳は25歳。白王の教師としては2年目で、まだ若い。
新入生たちは小依の声にすぐに席につく。ほどなくしてホームルームが始まった。