時は今



 その日は歌だけを全員で通しで歌い、練習は終了した。

「あー実際うたうと、聴いてるだけと何か違ーう」

「会長と四季くん、声がハモってた」

「ね。あの組み合わせ歌でもいいね」

「高遠さんも良かったー」

 初め歌うことに乗り気ではなかった生徒も、音楽という不思議な熱に動かされてその気になっているようだ。

「帰り、カラオケ行く人ー。てか、丘野樹に歌わせたい人ー」

 コーラスグループだった藍原巽が丘野樹に絡んでいる。

 あー歌わせろ歌わせろー、はいはい俺2番、何お前らまだ歌うの。一部の人間はこれからカラオケに行くようである。

 元気だね、と四季が呟いた。歌い疲れた由貴が四季の隣りで今にも眠りに落ちそうだ。

 いつもなら「会長も四季くんも行くー?」と女子の誰かが声をかけてきそうなのだが、由貴がこの状態なので気を回してか、ふたりには声はかからなかった。

「由貴、送ろうか?」

 由貴が四季を送ることは多いのだが、流石に今日は立場が逆である。由貴は「大丈夫」と答える。

「親父と一緒に帰る。まだ職員会議終わっていなければ眠っておけばいいし」

 そういえば由貴の場合、そういう選択肢もあるのである。

 四季は「じゃまた明日」と告げると忍を振り返った。

「忍、一緒に帰る?」

 忍が「うん」と頷いた。

 望月杏と佐藤ほのかが忍の横から顔を出す。興味津々に四季の様子を窺った。

「ねぇねぇ、四季くん、四季くんの方からゆりりんに告白したってほんと?」

 四季は少し赤くなった。

「…うん」

「きゃーほんとなんだ。わー、いいなぁー」

「待って。それ以上聞かれても答えないよ、僕」

 四季が困ったように言う。根掘り葉掘り聞かれると困るのだ。忍のことといい由貴のことといい。

「えーどうしてー」

「どうしても。秘密」



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