時は今
忍の家は実をいうと四季の家より遠い。
桜沢の家の敷地そのものが大きくて、屋敷に着くまでが森林公園のようになっているのだ。
家に着くまでが遠いからと忍は申し出たが、四季は「気分のいい道だから、いいよ」と言った。
確かに歩いていて気分のいいところではある。
「──四季」
「ん?」
「どうして私だったの?」
忍は不思議そうに尋ねた。四季には理由はいらないことなのだが、忍には聞かずにはいられないことらしい。
「どうしてって…好きになってしまったら好きだとしか言えないし」
「でもつらくならない?私、静和のこととか由貴のこととか抱えているから」
「話せば?話してもつらくないなら。僕、忍を好きになる時に、この子由貴が好きなんだって気づいてから好きになっているから、それはもうある程度仕方のないことって割り切って好きになっている部分あるんだよね。他の男のことが好きな子だとわかっていて好きなんだから、その子の気持ちを受け止められるようでなければ最初から好きになるなというか」
「──そう」
「いろいろ考えるよ。僕も。たとえばこの道は桜沢静和と歩いていたことがあったのかもしれないなとか」
「…うん」
忍はふわりと遠い目になる。
「この道はよく歩いてた。涼とも。だから今、隣りで歩いているのが四季なのが不思議」
忍は四季を見てふふっと笑う。
「この間、送ってもらったじゃない?その時はまだつき合う前なんだけど。あの後、涼のお父様に話してみたの。私がもし静和以外の人とつき合うことがあったら──とか」
四季にはそこまでは考えが及ばないところだった。
そうだ。忍は桜沢静和の恋人だったから涼の家に住まわせてもらっていると聞いた。
それが忍の心が静和以外の男に傾くようなことがあれば、いい気分はしないのではないか。
「それで──何て?」
「それは自然に任せなさいって。娘のように思っていることは今さら変わりようがないから、そんなことを気にする必要はないって」
「……」
「びっくりした。あんな人もいるのね」
「…すごいね」
「だから四季も桜沢の家に来る時に気を遣いすぎたりしないで」
「うん」