時は今



 席順は名前の順だったため、名字が「綾川」の由貴は席を探すのに苦労はなかった。

 教室に入ってすぐの、いちばん前の席につくと、桜沢涼も最前列の席に座っているのが見えた。

(同じクラス、か…)

 いちばん前の真ん中の席。

 ホームルームでは各教科担当の先生の名前、教科によって移動する教室がある場合どの教室を使うか、クラス委員、部活動についての説明がひととおりあった。

 とりあえず授業が始まる時と終わる時の号令をかける人が決まらないと、と小依は話した。

「クラス委員、立候補者がいるなら手を上げて」

 去年まではもう白王の雰囲気に馴染んだ生徒が「俺がやる」と手を上げた生徒もいたのだが、高等科に上がって白王以外の中学から来た外進組──要は由貴のような生徒のことだ──も何割かは見受けられた。

 そういった外進組に遠慮してか今年は内進組からも手が上がらなかった。

 小依は「まあ後ででもいいから、クラス委員をやりたい人は私のところに言いに来て」と言った。

「きちんと決まるまでは──そうね、綾川くん、お願いしていいかしら?新入生代表だし」

 クラス委員なら小学校や中学校でも経験したことはある。由貴は「はい」と返事をした。

 小依の目はその後、涼に向けられる。

「桜沢さんは去年もクラス委員をしてもらったのよね。しばらくお願い出来るかしら?」

「はい」

 涼は何の問題もないようにさらりと答えた。

 その「とりあえず」の接点が「何となく」一緒にいることが増えるきっかけとなった。



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