時は今
窓から見える揺れる緑。その向こうにはバス停が見えた。
「忍、この小学校だったんだ?」
「うん。音楽の先生が好きだった。ピアノもちょっとだけ教えてくれた」
「家、この近くだったの?」
「バス停のある道の向こう側。まだあるのかな。…わからないんだけど」
住んでいた家には特に思い入れもない様子で、感情の抑揚のない声が答える。
忍は「四季の話、して」と言った。
「どんな子だったの?」
四季は「今とあまり変わらないよ」と答える。
「ピアノ弾いてたり…時々学校休んでたり」
「休んでること多かったの?」
「普通の子よりは。休んでいる時って外にも行けないから、部屋で何かしているしかないんだよね。放っておくとずっとピアノ弾いているから、それも制限入って、後は絵を描くか本ばかり読んでた」
「それで絵が描けるんだ」
「うん。絵も好きだよ」
頬杖をついている四季の手が目に止まって、忍は「手、見せて」と言ってみた。
男の手にしてはそれほどごつくはない。
「四季の手、きれい」
忍は自分の手のひらと合わせてみた。
「私よりは少し大きいね」
四季は過去にあったあることを思い出してふわっとした表情になる。
「涼ちゃんの手のひらと合わせてみたことあるんだけど、それ思い出した。どんな手しているんだろうと思って、僕から涼ちゃんに話しかけたんだけど」
「ピアノ弾いているとやっぱり気になる?」
「うん。──でもピアノ弾いていなくても、人の手って好きだと思う」
忍の手を見て、四季は「忍はマニキュアしないね」と言った。
「マニキュア好き?」
「ううん。爪が可哀想だからしなくていいよ」
「可哀想って」
「変?爪が痛そうだなって」
「四季の考えることって」
忍はクスクス笑っている。四季は「もう」と少し怒ったように言うが、忍が楽しそうなので悪い気はしない。
忍は立ち上がると四季の手をとった。
「ピアノ教えて。弾きながら歌っていたんだけど、私、四季のピアノがないと物足りないみたい」