時は今



 白王の音楽クラスはほとんどの生徒がピアノを弾ける。忍は歌とヴァイオリンは飛び抜けていたが、ピアノが弾きたいレベルに追いついていないのが、気になっているようだった。

 四季は「いいよ」と答えると忍についてピアノの前に行く。

「弾けない曲があるの?」

「楽譜ないんだけど。十二月の歌に入る前の序奏。線が3つ並んでいる…記号?わからなかった。聴いた感じだとトレモロのように聴こえる箇所」

「ああ」

 四季は右手を鍵盤におくと「この音?」と何小節か分弾いてくれた。速い。

 弾く速さが違うだけでまったく違う音に聴こえる。

 忍は「待って」と声をかける。

「それをゆっくり弾くとどうなるの?」

 四季はかなり速度をゆるめて同じ音を弾いてくれた。忍は「…わかった」と理解する。

「わかったけど…練習しないと弾けないかも」

「ピアノは小さい頃に触っていないと難しいから、そんなに気負わなくてもいいと思うよ」

「そうなんだけど…。でもいい音を聴くとつい弾きたくなることってあるでしょ?弾きながら歌えるって楽しそうだし」

「それはあるね」

「四季がワルトシュタインの楽譜持ってたじゃない?この間、音楽科の子たちと『ハ長だし、弾きやすそうだね』って遊びながら弾いていたら、丘野くんが『それ違う。テンポが全然』って言って最初のページを綺麗に弾いてくれて、みんな固まってた」

 四季は思わず笑ってしまう。

「…うん。ハ長だと弾けそうって思うよね。何かわかる」

「四季はワルトシュタイン弾ける?」

「うん。…まだ完全にではないけど」

 練習はしているのだ。流石に練習量が違う。



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