時は今
「──この話はおしまい。私たちは目の前の受験のことを考える」
沙也はコーヒーを飲み干すと、容器をテーブルの上に置いた。
「あー沙也、急に現実に引き戻すなー」
「毎日クレープだけ食べてればいい人生送りたい…」
「あんたバカ?何言ってんの?」
──まどかたちのテーブルはまた和やかな空気になる。
「──園田さん?」
話をしていた本人が店内に入って来た。すぐに気づいたように合唱部の部長をしていた園田沙也の名字を呼ぶ。
木之本真白も合唱部だったため、このメンバーの中では沙也が最も後輩の真白を知っている人物ということになる。
「四季くん、久しぶり」
「今、話してたんだよー。四季くんのこと。窓から見てて『あれ四季くんだよね』って」
「彼女?」と、駒田未来が忍を見ながら聞く。「うん」と四季が答えた。忍が控えめにお辞儀をする。
「揺葉忍です」
「わ。沙也。さすが。ビンゴ」
「声楽専攻している身としては知っていて当たり前です」
四季が怪訝そうな顔になる。
「何か当てるゲームでもしてたの?」
「ううん。遠目に、連れて歩いてる人美人だねって言ってたら、沙也が揺葉忍だよって」
「そう」
沙也が気を回すように、四季たちに向こうへ行くように手で追い払う真似をした。
「せっかく彼女連れてるんだから、行って行って。ここにいると受験でストレスたまっている女子のおしゃべりの餌食になるよ」
「沙也、ひどーい」
「まんまでしょうが」
まどかがふわりと笑った。
「四季くん、元気になって良かった。またね」
「うん。またね」
四季は忍を連れて行ってしまった。
(ほんとに良かった)
四季が転校すると知った時、ピアノまでやめてしまうのかとまどかは心配していた。
でも一緒にいる人を見て安心した。
──音楽に生きている人だったから。