時は今
四季が食べ終わったのを見て忍は何故か安心する。
「四季が全部食べてくれると褒めたくなるのは何故?」
「──どういう認識されているんだろう、僕」
「四季の食べられるもの覚えておかないと、作る時に苦労しそうだから今で覚えておく」
忍はさりげなくそう言い、一拍おいて四季がその言葉の意味に反応する。
「作るって」
忍は笑った。
「とりあえずパスタは食べられるみたいだから大丈夫ね」
「──。僕も忍の好きなもの覚えておこう」
店を出て、忍はさっき四季に聞かれた質問の答えを返した。
「さっきの、アドレスと携帯番号を変えるっていうのね」
「うん?」
「何も言わずに四季の前から消えてしまったのなら、無理に探そうとしない方がいいんだと思う。四季の中にはいろいろな感情が癒されないまま、残ってしまうのだろうけど」
「……」
「私にもその子がどう思っているのかはわからない。だから四季はもし、その子とまた会えるような偶然があるのなら、その時どうしたいのか、伝えたいことはあるのか、考えておけばいいんだと思う」
「伝えたいこと…」
四季は考え込んで、つらくなったのか、すぐにやめた。
「──会わないとわからない。でも会ってもお互いのためになるようなことが話せるのかわからない」
──忍の方から四季の腕をつかむ。四季の心がそのまま不安の林道に迷い込んで行ってしまう気がして。
「……」
四季がわずかに顔をあげて忍を見る。忍は手を繋いだままただ隣りを歩いた。余計な言葉は必要のないものに思えた。
ふと忍が気づくと、四季が泣いていた。声も何も発さず、ただ静かに。
繋いだ手だけが、ただ必要なもののように。