時は今



「あれぇ?ゆりりんは?」

 杏がきょろきょろと教室内に忍の姿を探す。ほのかが「何か綾川先生に話があるんだって」と言った。

「ふーん…。定期演奏会のことかなぁ」

「そこまでは聞かなかったけど。お昼食べよ」

「うん」

 杏はほのかと向かい合って座り、お弁当箱を広げた。





「──僕に話って?」

 進路指導室の椅子に座り隆史が気さくな笑みを浮かべた。

 お昼休みにわざわざ進路指導室にいたがるような教師も生徒もまずいない。

 なるべく他の人が聞いていないところで話したいんです、と忍が言うと隆史が進路指導室を思いついてくれたのである。

 隆史は話しやすい雰囲気の教師である。時々「先生一緒にお昼食べよー」と女生徒に声をかけられている姿も見かける。

 だが内容が内容だけに、忍はまず何処から話せばいいのか、何から聞けばいいのか、わからなかった。

「何か僕のクラスの生徒についてのこと?」

 隆史からそう切り出してくれて、忍は「はい」と答える。

「…綾川四季くんのことなんです」

「四季くん?」

 隆史は「おや、恋のご相談ですか?」と冗談めかして言った。…が、忍にとっては的を射た話であったため、赤くなって俯いてしまう。

 隆史は訂正するように頭をかいた。

「えーと…その、申し訳ない」

「私、彼とつき合っているんです」

 忍は気持ちを落ち着けると、隆史の目を見た。

「彼、病気で倒れた時に、前の彼女といろいろあったみたいで──由貴くんが彼女のことを怒っていたとか、話してくれて…。でも、私はその時の彼のことを知っているわけではないから、話を聞いてもどうすればいいのかわからなくて」

「……」

「綾川先生に聞いたら、その時どういう状況だったのかわかるかもって、思って…」

 忍は一息にそこまで話して、口をつぐむ。隆史は真面目な表情になると、忍の言葉を吟味するように言った。

「四季くんが何か言っていたの?」

「少しだけ。つき合っていた子がアドレスも携帯番号も変えてしまって、その時の理由がわからなくて未だに不安になるみたいだったんです」



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