時は今



「お時間いただいてありがとうございました」

 忍が幾分すっきりした表情で立ち上がる。

「いえいえ。他に聞きたいことは?」

「彼に聞いてみます」

「──それがいいですね」

 隆史は微笑ましく忍を見る。

「あー…高校生かー…。僕もこれくらいの時に恋してたんですよ」

「どんな人だったんですか?」

「由真ちゃん。由貴くんのお母さんなんですよー」

「わ…。そうなんですか?」

 忍は隆史を見ながら、ふっと不思議な感覚にとらわれる。

(もし先生が恋をしていなければ、由貴に出会えることはなかったかもしれない)

 そう考えるととても特別なことのように思えてくる。

 「ありがとう」という感情がふわっとあふれるような。

「先生、ありがとうございました」

 もう一度、忍は隆史にお礼を言った。いろいろな意味を込めて。

 隆史はそれを受けて忍を笑顔で送り出した。



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