時は今



「──眠い…」

 お昼を半分まで食べていた四季が箸を置いた。

 とっくに食べ終わった由貴が「眠れば」と本を読みながら言う。

「全部食べてからね」

「……」

 言い返す気力もないらしい。黒木恭介がやや諦め気味に四季の拒食ぶりにため息をつく。

「なあ、普通お腹空かないか?大丈夫か、お前?」

「…うん」

「うんじゃねーよ」

「…はい」

 だめだこれは、と呟く。

 食っていい?食っていい?と四季の横に本田駿がやって来て、四季の弁当からひょいっと玉子焼きをつまんでぱくりと食べた。

「んまい。…はう!?」

 由貴が睨んでいる。

「四季に食べさせて」

 怖い。駿は「すみません」と謝ると気分がすぐれなさそうな四季の頭をなでなでしてみる。

「おっかないねー由貴。…大丈夫かい?」

「…うん」

 重症である。

「綾川四季くんは好きな食べ物はないんですかー?」

 何気なく問いかけた駿の質問に、わずかに四季が反応した。

「同じこと、忍に聞かれた」

「何!?揺葉忍に聞かれた!?して、何と答えた!?」

「苺」

「は?いや、ええと、苺って、あの苺?」

「…他に何があるの?」

「くあー貴様!!『忍』だと答える手もあるだろうが!!」

 駿が力いっぱい力説した。

 四季がちょっといいことを聞いたように「そっか」と眠そうに呟く。

 「そっか」じゃないよ、と由貴がたしなめた。

 恭介が「場合によっては四季なら使える答え方ではあるな」と言う。

 四季は少し考えて、駿に「食べていいよ」と弁当箱を渡した。

「なぬ?食っていいと?」

 駿が由貴の方を怖々窺いながら弁当箱を受け取る。今度は由貴の方も折れて、「四季が言っているんだから食べれば?」と言った。

 四季の中ではよくわからない不安が回っていた。

 わからなくて、日曜日はずっとピアノの前にいた。

 無心になっていないとどうにかなりそうだった。



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