時は今
「──四季」
噂をすれば何とやら。揺葉忍がA組の教室に顔をのぞかせた。
眠ろうとしていた四季が顔をあげる。
「…忍」
「ちょっといい?」
四季は立ち上がると忍の方まで歩いて行く。駿が「おー、何かうらやましいぞー」と囃し立てた。
「何?」
「…何って、とても眠そうなんですけど」
「…うん」
何となく思考がスローになっている。
忍が四季の額に手を当てた。
「──熱はないみたいだけど」
「うん」
四季は言葉の感覚をたぐり寄せるように言った。
「ごめん。──今、うまく言葉、出てこない」
「……。つき合っていた子のこと考えていた、とか?」
そうだ。園田沙也の姿を見て、考えたくなかったことが呼び覚まされてしまったように──真白のことが、急に。
忍は四季の不安を敏感に感じ取る。四季が心配させないようにと自分を遠ざける前に、と思った。声になっていた。
「四季、これからデートしに行こう」
「──。…え?」
四季もそこで思考が完全に止まってしまったように忍を見る。眠気まで凍結してしまったようだ。
今、何て言った?
「…デートって」
「行こう」
四季の手をとって歩き出す。四季は「忍」と呼び止めるが、忍は聞く気がないらしい。
様子を見ていた駿が「すげぇ!」と大笑いしている。
「綾川四季が揺葉忍に誘拐された!」
「ええ!?」と由貴が驚いて、駿のそばまで行くと、教室の戸口から忍と四季の方を見やる。
「ちょっ…忍!?」
「由貴、この人、ちょっと借りるから!」
「借りるって…。ええ!?」
揺葉忍の予想外の行動に、外野は唖然としている者が大多数、後は駿のように面白がって笑っている。
四季は初めわけがわからず忍に手を引かれるままについて行ったが、その繋いでいてくれる手は決して嫌なものではなかった。
「忍。何処に行くの?」
意識のはっきりした四季の問いかけに、忍はくるりと振り返ると言った。
「ふふ。行けるところまで」