時は今



 滝沢詠一の診療所にふたりで顔を出すと、詠一は驚いたようだったが、理由を話すと「ははは」と笑った。

「ゆっくり休んで行きなさい。私は仕事だからゆっくりというわけにはいかんがね」

 四季の顔色を見て、奥の個室に案内してくれた。詠一が仮眠をとったりする部屋である。

 四季はほっとしたように畳間に座り込んだ。今日はやはり少し不調である。

 忍が「少し眠った方がいいよ」と言った。

「顔色良くない。滝沢先生のところにしていて良かった」

 四季は「うん」と言葉少なに答える。横になると忍がブランケットをかけてくれた。

 外はのどかな午後の日差しがあふれている。ぽかんとした静寂。

 四季が目を閉じる。忍が四季の髪を撫でていると、四季がふわりと目を開けた。

「忍、一緒に眠って」

「──え」

 忍が一瞬、時が止まったような表情になる。

 四季は「変な意味じゃないよ」と笑った。

「安心したいだけだから」

「安心?」

「うん。僕が眠るまででいいよ」

 忍は横になる。四季と同じ目線になると四季は楽しそうにふふっと笑った。

 忍の髪に手をのばして髪を撫でてくる。

「──四季、眠る気ないでしょ?」

「そんなことないよ」

 柔らかく見つめたまましばらくそうしていた。やがて忍を抱き寄せる。そんなに強くはない。

 その腕を振りほどこうと思えば振りほどけるくらいの、優しい抱擁。

 忍は四季にふれられていることが心地良かったが、四季の方もそれで安心したのか、やがて眠ってしまった。

(ほんとに眠っちゃった)

 忍も何となく優しい気持ちで四季の髪を撫でる。

(安心、か…)

 四季は眠れないようなことがあったのだろうか。





『──好きって言って』





 忍にはその言葉がとても痛々しく響いていた。

 いちばんつらかった時にそばにいてほしかった彼女に、その言葉を言ってもらえなかったからではないだろうか。





(大丈夫だよ)

 心の中で語りかける。

 私がそばにいるよ。



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