時は今
忍が洗い物を片付けようとすると、先に四季が立ち上がった。
洗い物は好きだから忍に座っていていいと言う。
とはいうものの、忍も気になって立ち上がってしまい、四季の隣りで洗ったものを拭き始めた。
「四季、こういうの食べてくれると思わなかった」
忍が思ったことを素直に口にする。
そもそも四季が食べている姿をほとんど見ないため、どんなものを食べるのか想像がつかなかったのだが、料亭や旅館を経営しているような家の息子がこういう質素なものを食べてくれるとは思わなかったのだ。
四季は「食べやすいものならいいよ」と答える。
「素材の味がそのまま生かされている方がのどを通りやすい」
「うすい味つけの方が好き?」
「…うん。何かひとつが過剰になると食べた後で気分わるくなるみたい。油ものだけとか塩気が強いものとか」
身体が敏感に反応してしまうのだろうか。食べ過ぎるということが出来ない人かもしれない。
「食べ放題とか苦手?」
「…うん。座っているだけでいいならつらくないけど、食べないわけに行かないし」
「ああ、それじゃ四季、何かいろいろなところで気を遣って大変な人だ?」
「うん」
普通の人は食事は楽しいというのが前提だから、四季のような人は何かとうるさく言われてしまうだろう。
それも食べ物は毎日ついて回るものだから、それがつらいとなると時々精神的に参ってしまうことがあるのかもしれない。
「──あ、でも」
「ん?」
「入院している時、薬の副作用で、味覚がおかしくなったり気分がわるくなったりしたことがあって、その後で食事をしてみたら、美味しいって思って──そういう感覚があるのは感謝するべきことなんだなって思った」
「…そっか」
忍は「良かったね」と言った。そう感じられたことがあるなら幸せだ。