時は今
洗い物が終わっても四季がシンクの前に立ったままでいるため、忍が「四季?」と声をかけた。
「──平気。何でもない」
「……」
しばらくそうしていて落ち着いたのか忍のところに戻ってきた。
「どうしたの?」
「……。食べて後、気分わるくなることがあるから」
「──」
「忍、あまり気を遣わなくていいよ。由貴なんかもう割り切っていて『吐いてもいいから喰え!』って言うし」
忍は驚く。
「そうなの?」
「うん。ひとつひとつ気にかけていたら、見ている方の神経も持たなくなるよ。だから忍もあまりこんなことで気を遣わないで。僕も常に誰かに気を遣わせていると思うとつらいし」
「そう」
四季は忍の隣りに座る。その距離感が四季の心が安らいでいる証拠だと思った。
四季が何気なく忍に聞いた。
「忍は僕を見ていてイライラしたりすることある?」
「イライラって、どんな?」
「クラスに黒木くんっているんだけど、僕を見ているとイライラするって言って、最初の頃よく怒ってた。教室でハーレム作るなとか、昼メシはきちんと喰えとか…。黒木くんには僕が人よりも甘い生き方しているように見えていたのかなって思ったんだけど…。でも最近はあまり怒る感じでもないんだけどね」
「ああ…。四季って先入観でそう見えてしまうことはあると思う。いい家の子ってイメージがあると、わがままで食べないんだとか、人並みの苦労を知らないくせにとか」
「──うん…。でも確かに苦労は知らないんだけどね」
忍はそれを聞いて「…そうなのかな」と言う。
「私なんかは毎日きちんとした食事がある家では育たなかったけど、四季の話を聞いていたら人の苦労なんてその人になってみなければわからないと思うもの」
「……」
「私は何でもいいから、食べ物にありつけたら嬉しかった。でも…自分が何か食べた時に気分がわるくなってしまうような人だったら、それでも食べ物があることが幸せだと思えるのかというと、わからないから」