時は今
忍は初めて四季と会った時のことを思い出していた。
ずっとそのままの速さで最後まで紡がれてゆくかと思った旋律。
それが突如、途切れた。
途切れさせざるを得なかった。
それを弾いていた彼の身体が弾ききることを許さなかったから。
弾きたいと思っていただろう、感情が見えた。──後ろ姿に。
思わず声をかけた。
そこで、自棄にならないようにね。
──彼の心が自分を傷つけてしまう、その前に。
「──初めて会った時」
忍は自分の手をかざして見た。ピアノを弾いていた四季の手を思い出すように。
「四季、鮮烈だった」
「──。そう…なの?」
「うん。この人は何だろうって思った。音も、表情も、手も…。男の人が泣くの見たのもびっくりした」
「──泣くのって」
「でも四季、私の前ではよく泣いているね」
忍は横にいる四季を見た。否定出来ない。四季自身そう指摘されて、ああそうかもしれない、と思ったくらいだ。
「──うん…。そうだね。忍の前でよく泣いている気がする」
「甘えてくるわけでもないのにね。不思議」
「泣くのって甘えたいから泣くの?」
「さあ…。四季の場合、ピアノを弾きたいからピアノを弾いているようなものと同じに見えるけど。他の人の前では泣かないの?」
「……。由貴の前では泣くことあるけど」
「そうなんだ」
忍は何となくこんな会話をしていることも不思議だった。でも嫌いではない。