時は今
診療所を後にして、学校に戻る道を歩く四季の表情に、つらそうなものはもう見えなかった。
「四季、気分良くなった?」
「──うん」
忍と話していたから、と言っている。
身体に必要なものは物理的には食べ物が筆頭にくるはずなのだが、四季の場合は精神的なものがかなり大きく作用しているようだ。
「忍は嫌いな食べ物はない?」
「特に。どうして?」
「ううん。今度は僕が作れたらいいなと思って」
──忍に。
忍は顔をほころばせる。
「作れるの?」
「うん。たぶん。作るのは好きだよ」
「食べるのは苦手なのに?」
「…うん」
「うん、って」
そこは否定はしないのだ。忍は困って苦笑する。
「私も四季を喜ばせたいのに、四季が喜んでくれる料理って作れる自信ない」
「──。忍が作ってくれるのは嬉しいよ。それだけで」
四季は穏やかに言葉にする。
(もしかしたら──頑張って食べてくれたのかもしれない)
眠っているところを、起こして。起きた時も気分が良さそうではなかった。洗い物をして後もシンクの前でしばらく立ったままだった。
苦手なもののことを話させて、それだけでも気分は良くなかったかもしれないのに。
(何だか、気がつくと四季のことばかり考えてる)
忍は自分の心の変化が嬉しかった。
由貴のことを考えている時は何処にも動けなかった心が、四季のことを想い始めたら自分を見ていてくれる四季を見て、少しずつ動けるようになった。
のびやかに、自由に。
四季の心もそうであったらいい、と願う。
つらいものがひとつでも軽くなるように。