時は今



「──。食べられないのってつらいのかな」

「由貴くんは食べ物が喉を通らない経験って、今までには?」

「…あるけど」

 たたみ終えて、両手に抱え込んだ。

「四季みたいに、そこまでつらくはなったことはないから」

「でも由貴くんは、四季くんの身体が心配で怒っているわけでしょ?」

「──そうなんだけど…。心配のしすぎでストレスをかけてしまうっていうのは…違うかも」

 由貴は隆史を見た。

「たとえば話が全然違うんだけど、俺と涼のことにいちいち親父が首を突っ込むとか」

「なにゆえそっちに話が飛びますか…。由貴くんは親になったことがないから、親の気持ちがわからないんだ」

「…わからないよ。この歳で親の気持ちになれっていう方が無理じゃない?」

「あー…もう、お父さんなんていいんだいいんだ」

「拗ねても可愛い由貴くんなんて出ないからね」

「ひどい」

「俺、親になっても親バカにはならないように気をつけよう」

 由貴がそんなことを言っている。隆史がその言葉にふと考え込んだ。

「由貴くん…。由貴くんはもしかしてそのまま涼ちゃんと結婚しちゃうんですか?」

「え」

 表情が固まる。由貴もそんなことは考えてもいなかったようだ。

「涼と?」

「だって由貴くん見てたら、涼ちゃん以外の子に関心があるふうでもなく…」

「……」

 由貴が頬に手をあてて「考えたことなかったけど…」と呟く。

「もし涼なら、俺が桜沢姓になるかも」

「え」

 今度は隆史の表情が硬くなる。

「ゆ、由貴くんの方が?」

「涼、桜沢の家の後継ぎだから」

「ちょっと待って、由貴くん。僕はひとり息子をお嫁に出さないといけないんですか?」

「変な言い方するなよ」



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