時は今
「何をしても、どう頑張っても、出来ない時って由貴にはある?」
「……」
由貴は重苦しい気分のまま、今がそうだと思う。
何か──真綿で絞め殺されているような、生殺しにされているような、奇妙な感覚。
「──うん」
ソファに座り直し、手のひらを組む。
「だから白王に来た。自分の何かが変わるのか…変えられるのかわからないけど」
「そう」
「…四季はある?」
四季は「うん」と答える。
「単純に身体の調子が良くない時とかね」
四季はあまり身体が丈夫ではない。それでも高校生になるあたりからだいぶ学校を休む日は少なくなってきたが、時々ひどい風邪をひいてしまう時もある。
一度、四季が寝込んでいる時に「ピアノで何か弾いて」とお願いをしてくるから、弾いていたらぼーっと四季が見ていて、それが心に残っている。
本当は四季自身が弾きたかったのではないかと思う。
(──あげられるなら、四季にならピアノ弾く力くらいあげてるのに)
「由貴、何か書いてみたらいいよ」
「え?」
「自分の思っていることをそのまま紙に書き出すとか。そうすることで気持ちの整理がつくこともあるかもしれないし。文章ではなくても、絵でも何でも」
「…うん」
ぐるぐる悩んでいるよりはそれがいい気がした。
「──そういえば、桜沢涼と同じクラスになった」
由貴はそう報告する。
「本当に?良かった。元気そうだった?」
「うん…。元気そうには見えたけど、たぶん精神的にはまだかなり落ち込んでいると思う」
「──そうだよね」
「クラス委員が正式に決まるまでの間、ふたりで一時的にクラス委員任された」
「え?涼ちゃんと?」
「うん。彼女が入試首席だったんだって。それで」
「──うわ…。涼ちゃんも由貴に劣らずパーフェクトな子?」
「……」
完璧、か…。
由貴は涼の様子を思い出して、ある意味そうだな、と思う。
隙のない雰囲気。
(──涼は何を考えたりするんだろう)
その瞳の先に見えているものは何だろうか。