時は今



 吉野家の朝は戦場である。

「ねーちゃん、そこどけ!俺急いでんだけど!」

「あんたこそ、うざいんだけど!それあたしのドライヤーでしょ!?」

「桐も楓も寝坊してきてケンカすんな!どけ!洗濯物とる!」

 智がうらうらと桐と楓の間に割り込む。

 父親の慶吾がはぁとため息をついた。

「父さんにも洗面所使わせろよ…」

 慶吾は朝食を食べて歯磨きをしたいようである。しかし、切羽詰まった子供たちの有り様に、割り込む勢いを喪失しているようだ。

 お父さんは台所で歯磨きをしたら?と、母親の伊都子が手を拭きながら声を投げる。楓が「ほら」と歯ブラシを投げた。

 智は洗濯物を洗濯機にかけると伊都子に干すのをお願いした。

「え、お姉ちゃん、もう行くの?」

 妹の桐が髪を結びながら洗面所から顔を出す。

「うん。文化祭の練習あるし」

「帰りに雑誌買って来てー。あたしの通学路の本屋、売ってないんだもん」

「オッケー」

 桐に返事して、家を出た。

 涼と忍なんかは朝っぱらからこんな状況はねーんだろーな、と思う。

 四季も想像つかない。

 庶民的なのは会長ぐれーかな、と思ったりもする。

 さて、一日の始まりだ。



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