時は今



『みんな、断られたんだって』

『あーやっぱりー』

『そりゃ、あれだけ騒がれたら、本命作りにくいよー』



 そんな会話が飛び交っていた、二月十五日。

(四季先輩、やっぱり彼女作らない人なんだ──)

 真白はがっかりしたような、ほっとしたような、複雑な気分だった。

 チョコレートは小さなものを選んだ。先輩が食べるの大変そう、と思うと小さなものがいいかと思って。

 ラッピングをしてリボンをかけて。カードにメッセージを書こうとした。でもいざとなると言葉が思い浮かばなかった。

 いいや。先輩が受け取ってくれるだけでも。

 当日、四季の周りには女の子がたくさんいた。声をかける隙もないくらい。

 真白は放課後、帰るところを見計らってあげることにした。

 雪が降っていた。

 校門を出て少し歩いたところ、いつも通るはずの道でずっと待っていた。

 どれくらい待っていたのか、もうもしかしたらすれ違いで帰っちゃったのかな、と思い始めたところで、四季が歩いてくるのが見えた。

「あの…、先輩!」

 真白は叫んで、駆け寄ると、小さな包みを差し出した。

「これ…!」

 顔が上げられなかった。心臓が爆発しそうだった。

 四季が受け取ってくれて、くるりと背を向けると、逃げるように走って帰った。

(ああ、あたし、何やってるんだろう)

 あれだけ待って、あんな渡し方しか出来ないなんて。

 でも受け取ってくれた、そのことが真白を幸せにしてくれた。

 翌日廊下ですれ違っても、四季は気づいてはいないようだった。

 あんな一瞬で、顔もあげないんじゃ、それでカードも何もないんじゃ、わからないよね──。

 ちょっと寂しかったが仕方ないか、と思うことにした。



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