時は今
「静和が死んでも、私には静和が見えていたの。そして私の姿は生きている人には見えなくなっていた。私が『生』の方の世界に一切の心の繋がりを持たなくなっていたから」
「──忍」
「ここで静和にヴァイオリンを教えてもらっていた。静和の音楽を私はこの世界に残したかったし、静和は私をこの世界に繋ぎ止めたいと思っていた。──そうして練習している時に、由貴に出会った」
「由貴に?」
「そう。由貴には私の姿も静和の姿も見えていなかったから、ヴァイオリンの音だけ。今、四季がヴァイオリンの音を聴いたように」
「ヴァイオリンの音、由貴と僕以外の人には聴こえてなかったの?」
「聴こえてなかったと思う。立ち止まる人は誰もいなかったから」
「……。どうして僕と由貴には聴こえたんだろう」
「生と死を見つめている音楽に心を寄せていたからよ」
忍はすらりと言った。
「普通の人はそんなこと考えながら生きてはいないでしょう?」
四季はその言葉に納得する。
「そうだね」
生と死を見つめている音楽──由貴が聴こえたのだとしたら、母親の由真のことを考えていたのだろうか。