時は今



「あ、帰ってきた。由貴くん、心配したよ」

 玄関先に隆史が顔を見せた。

「まだ19時半だし」

「でも今日は学校、お昼過ぎには終わったでしょう」

「四季の家に行ってた。食べてきた」

「えー?」

 お寿司とったのに、と隆史が気落ちした表情になった。いつまでも怒っているのもおとなげない。由貴はふっと語調を和らげた。

「嘘。四季には食べさせたけど、たぶん俺のは入学祝いで親父が買ってくると思って、あまり食べてない」

「──おや」

 さすがは由貴くん、と隆史が嬉しそうにする。

「四季くんに作ってあげたの?」

「だって四季、放っておくとずっとピアノ弾いてるから」

「はは。四季くんらしい」

「いろいろ弾いてくれるから勉強にはなるけどね」

 由貴はピアノの上に買ってきた楽譜を置いた。

 隆史が「あれ」と尋ねる。

「由貴くん、ピアノでも弾くの?」

「──ああ…」

 一瞬、由貴の中でいろいろな感情がめぐり、やがて「春だからね」と言った。

「いろいろ、切り替えたいし」

「ふーん…」



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