時は今
「──そんなに簡単だったわけでもないよ」
だって、忍は由貴に片想いをしていたから。
四季はその言葉は胸にしまい込む。片想いがつらい気持ちはわかる。
高遠雛子を見ていて胸が痛むのもそのせいだろう。
自分が好きなのは揺葉忍なのだから、そこで胸を痛めてもどうにもならないのだけれど。
「四季くーん」
荻堂芽衣と桧山亜絵加が手縫いしていた衣装の一部を持ってやってくる。
「レース、このパターンとこのパターンとどっちが好き?」
駿から見るとどちらも同じくらいに可愛いレースに見えるだけで、違いがよくわからない。
四季は「どれ?」というと、芽衣と亜絵加の持ってきたレースを見る。
「これはどの部分?袖口?」
「そう。くしゅって絞って、つけたいの。四季くんはどっちがいいと思う?」
「桧山さんが持っている方かな。荻堂さんの持っている方は繊細な作りになっているから、レースが崩れにくい部分に使った方がいいと思う」
駿は「ほほう」とふたつのレースを見比べる。
「むう。なるほど。俺にはよくわからんが、レースひとつにもいろいろあるのだな」
芽衣が楽しそうに言った。
「そうなのー。駿くんはオシャレ好き?」
「し、駿くん?」
「あれ?違ったっけ?本名、本田駿、よね?」
「その通りだが、いきなり駿くんなんて呼ばれるとドキドキするわい。…あーびっくりした」
「ドキドキ?駿くん、芽衣に恋しちゃう?」
「な」
「あは。冗談だよー」
亜絵加が駿に笑いかける。
「あのね、本田くん。カレカノがいる人は、本命だけ見ててもいーの。でも本田くんも揺葉さんの話ばっかりしてると『本田くんは揺葉さん本命なのかー』って周りの子も思っちゃうよ」
「ね。揺葉さん確かにいいけどね。優しいし」
「…そうか」
駿は芽衣と亜絵加をマジマジと見る。
「それは俺が若干モテると思ってもいいのか?俺は女の子は四季くんみたいな人がいいのかと思って、遠慮がちになってしまうんだが」
「そんなことないよー。四季くんは好きだけど、それは駿くんが好きじゃないってこととはイコールじゃないでしょ?」
「そうそう。カレカノいる人が好きな人たくさんいると問題あるけど、募集中の人は選択肢たくさんあっていいもの。ミーハー心が好きになることだってあるんだし」