時は今
「…おかしい」
杏が忍の机に顔を乗せて、じ、と上目遣いに顔を覗き込む。
「何だかおかしい〜。今日のゆりりんは、変!」
顔を覗き込まれた方は、そうかな?と、ついそんな気になりそうになってしまう。
ほのかが杏のおでこをちょんとつついた。
「杏は噂の真相が知りたいだけでしょ?」
「うん。気になるものー」
「噂?」
「四季くんの家にお泊まりしたってー。今度こそ?ついに?」
「え…と」
忍は少し戸惑ったように口ごもる。ほのかが察して「杏」と言った。
「…声、大きい」
「ご、ごめん」
忍の反応を見て杏も声を小さくする。
(何だかのぼせているみたい)
杏の言うように今日の忍は何処か上の空だった。
四季に「友達に言っても大丈夫?」と聞いてみると「僕は大丈夫だよ」と話していた。
「あの、ね」
忍は家の事情で綾川の家に昨日移ったことを、少しずつ話し始めた。
杏とほのかは複雑な事情が絡んでいそうな話に、何も言わずに聞いてくれた。
一通り聞いて、杏が「きゃー」と小声で喜びながら机を叩く。
「じゃあ、ゆりりん、思いっきり四季くんとラブラブだ?きゃー。詳しく教えろー」
がし、と首を抱かれて忍は戸惑う。
「く、詳しくって」
「あー杏の好奇心に火がついちゃった。ゆりりん、この子、ここの所これといってときめきがないから、欲求不満なのよ。襲っちゃえー」
ほのかが「チューしてやる!」と杏に顔を近づけると、杏は「きゃー」と言って逃げる。
忍も可笑しくなってきて、ほのかから逃げる杏に顔を近づけた。
いたずらっぽく、頬にキスをする。
「幸せになれるおまじない」
「きゃー。いやー。ゆりりんにキスされたー」
忍と杏とほのかが仲良さげにしているのを見て、近くにいた男子達が「なにアレ」「俺も混ざりたい」とぼやいた。