時は今
6限以降の授業は文化祭にあててもいいことになっているため、その時間からは四季も音楽科に自由に出入り出来る。
由貴も衣装は作らなければならないため、四季は一応声をかけてみる。
「由貴。僕、音楽科の子たちのところで作るけど、由貴も一緒に行く?」
「ん…」
由貴は四季に返事をして、別の方向に目をやった。
「涼。俺、音楽科で作るけど」
「じゃあ、涼も行く」
話が早い。
トコトコ由貴のところに寄ってくる桜沢涼が愛らしい。
その涼の様子を見て、吉野智が声を投げる。
「あれ?涼、教室では作らねーの?」
「うん。会長が音楽科で作るって言うから」
「へー。じゃあ私らも移動しようかな。音楽科にも演劇部の連中いるし」
そんなわけで、A組の生徒は何名か音楽科に移動しはじめた。
音楽科は教室も広いから、衣装も広げやすいのである。
廊下を歩き始めてから、芽衣と亜絵加が四季のそばに来て、言った。
「ね、四季くん。ちょっと聞いたんだけど…。揺葉さん、怪我してるんだって」
「え?」
「転んだって話だけど」
「何処で?」
「それが、よくわからなくて」
心配げになる四季に、亜絵加が言い添える。
「芽衣も私も聞いただけだから気にしないで。揺葉さん、授業は受けていたみたいだし」
「…うん」
由貴が訝しげな顔になる。
「忍が転ぶような怪我する?」
由貴の横で涼も変に思ったようだった。
「忍ちゃん、運動神経いいのに」
智が「あー…」と、由貴と涼の会話に混ざる。
「四季が不安になるだけだからやめい。会って本人に聞いてみりゃいいだろ」