時は今



 音楽科の教室に来ると、四季の目は忍を探してしまう。

 A組の生徒がまとまって来たのを見てF組の生徒がにぎやかになったため、望月杏と佐藤ほのかと一緒にいた忍もそちらを見る。

 吉野智が遠目に忍の姿を見てピンと立っているので首を傾げる。

「ら?忍さん、無事そうですけど」

「四季くん!」

 高遠雛子が機嫌良く駆けて来て四季の腕に絡んだ。

「雛子と一緒に作って。いいでしょ?」

「──うん。ちょっと待ってね」

 四季はやんわり雛子の手からすり抜けると忍の方に歩いて行く。

「忍、怪我したって聞いたんだけど」

 少し様子が変である。四季たちの方をちらりと見ただけで、杏とほのかのところから動く気配もない。

「──ゆりりん」

「……」

「四季くんに言った方がいいよ」

「何を言った方がいいって?」

 ほのかが忍を促す間に、四季は忍のすぐそばまで来て──絶句した。

「──。忍、どうしたの、その傷」

 忍の唇に傷が出来ているのだ。

「転んだのよね?」

 声を発したのは雛子。忍は淡々とした声で答えた。

「うん。転んだの」

 雛子の威圧するような空気も半端ではないが、それに動じていない忍もある意味怖いものがある。

「忍」

「四季、ごめん。話すの痛いから、後でね」

 そう言われてしまってはそれ以上問い詰めることも出来ない。

 杏が黙っていられなくなったように言った。

「さっき、ゆりりんと高遠さんがふたりで更衣室に行って帰ってきてからなの」

(雛子が忍を傷つけた?)

 想像できないことではない。

 疑いの目が雛子に向けられるが、雛子はさらりとした調子で言った。

「空気を悪くしているのは誰かしらね?私、楽しく文化祭の準備がしたいわ」



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