時は今
「何っだよ、あの女!」
由貴は器楽室に来るなり吐き出した。
智が「気持ちはわかる」というような顔になる。
杏とほのかも高遠雛子と同じ教室にいて思うところあったのか「もー今日つらかったー」と嘆く。
「更衣室から帰ってきて、あんな怪我してるって絶対変だし!高遠さんは高圧的だし、ゆりりん、その前までは四季くんのこと話してて、楽しそうだったんだよー。もームカつく!何で高遠さんのヤキモチなんかにいちいちいちいちゆりりんが気を遣わなきゃいけないのよ!じゃなけりゃ高遠さんとバトれって、ディベートの国じゃあるまいし!高遠さん、何様ー!?ゆりりんに本気で傷つけといて、何であんなこと言えるの!?信じられない!」
「神経、理解に苦しむね」
杏の言い様にほのかが頷いた。
「四季くん、何て言っていいのかわかんない表情してた。傷つくよ、あんなことされたら」
四季は音楽科の教室を出てから、「忍のところに行っていい?」と聞いてきたため、由貴たちは四季だけは保健室に行かせたのである。
大人数で保健室におしかけるのは流石にまずいと思ったため、器楽室でこんなことを吐き出しているわけだ。
由貴はこれ以上イライラしても仕方がないと思ったのか、大きく息を吐くと、生地を手に取った。
「ムカつくから、あの女の衣装よりすごいの作ってやる。四季の」
「えー?」
杏とほのかは目をまるくした。
「いい考え…だけど、高遠さん、女王様だよー?たぶんいちばん綺麗な衣装だよ」
「ヘプバーンの衣装。ジバンシィのドレス。あれ、本物に近い感じで作ったら、絶対見映えする」
智と杏とほのかは想像して、うんうんと頷いた。
「四季って華奢だし、姿勢いいからな。あれ着たら確かに見映えする」
「上品だもんね。色も。四季くんの雰囲気にも合ってるし」
「これ。糸井硝子さんがサンプルで作ってきてくれた」
由貴が広げて見せる。まず生地がいい。
予算を言うと「このドレスじゃ生地代もバカにならないわね」と言って、古いデザインのドレスで生地の傷んでいないものを選んで、糸を外し、生地代がかからないように作り直してくれたらしい。