時は今
保健室のベッドに横になると、少しずつ気分が落ち着いてきた。
雛子と一緒の教室にいるだけで無意識のうちに気が張りつめていたらしい。
息が戻ってくるような感覚。
「──忍ちゃん、お茶いれてきた。飲む?」
涼がお茶を運んで来てくれた。
「…ありがとう。お茶、何処から?」
「教官室。理由話したら先生が持って行きなさいって」
忍は身を起こし、お茶をひとくち口にした。
唇に傷があるので、そんなに思い切りは飲めない。
だがお茶の温度が心を和らげてくれた。
「忍ちゃん、怪我、ひどいね」
涼は見ていて自分も痛い気持ちになったのか、顔をしかめる。
忍は傷ついた時の心の納め方のように「大丈夫」と言葉にする。
「…さっきね」
「うん」
「四季が音楽科の教室に入ってきた時、私、この傷見られるのが嫌で、杏とほのかの陰に隠れていたの。でも四季、心配してくれていて、それが何となくほっとして」
「……」
「心配させているのに、ほっとするって、変ね。でも私、怖かったの」
また、涙がこぼれてきた。
何だろう。よく涙がこぼれるのは、心が感じやすくなっているからだろうか。
楽しいことにも、悲しいことにも。
「涼も怖かった」
忍を見つめて、涼はそう言葉にする。
「忍ちゃんだけ別の教室だから、時々、四季くんや会長から高遠さんの話を聞いたりすると心配になる。今日だって、教室に行ってみたら忍ちゃんが唇を怪我していて、高遠さんと更衣室にいたって言うし…。涼たちの見えないところで、忍ちゃんだけが傷ついていたりして我慢しているんじゃないかって考えると、怖くなる」
「──」
「忍ちゃん、傷つけられたらそう言っていいんだよ。高遠さんみたいな人もいるの。それは仕方ないの。涼、頭に来たから高遠さんの頬叩いたんだし」
「……」
忍の胸にはずっとつかえているものがあった。
涼には話したくて、でも──ずっと話せなかったこと。
「──。私ね、高遠さんの気持ち、少しだけわかるの。行き場のない思いを抱えているのがつらい気持ち。だからそれを思ったら、言えなくなって」
「高遠さんが四季くんを好きな気持ちのこと?」
「そう。──涼…私ね。涼の好きな人のことが好きだったの」
涼が一瞬思考が止まったように表情を凍らせた。