時は今
「涼…の、好きな人?」
「うん。由貴のこと」
(でも、忍ちゃんは)
涼の心は動揺する。
(忍ちゃんは…涼のお兄ちゃんの「彼女」で)
静和が車の事故で他界してしまってから、忍は心に傷を負ったままだった。
だが、二学期に入ってから、四季が白王に編入してきて、忍に変化が訪れた。
四季が忍のことを好きになり、ふたりがつき合い始めたのだ。
それまで忍の好きな人はずっと静和だと思っていた──。
愕然としている涼に、忍は誠実に語った。
「今だから話せるの。私は静和を失ってから、何を希望に生きていけばいいのか、わからなくなっていた。その私の声なき声を聴いてくれたのが由貴だった。…こんな人もいるんだ、と思って、私は少し人間に希望が持てたわ。でも由貴のとなりには、その時には既に涼がいて、由貴は涼だけを見てた。私はこの恋は知られてはいけないと思った。由貴にも、涼にも。私ひとりの心の内におさめていれば、誰も傷つかない、そう思ったから」
「…忍ちゃん」
「私、涼のことを好きな由貴も好きだったの。私の気持ちなんて、全然気づいていないと思う。それくらい涼に一途な愛情を傾けている由貴が好きだった。でも、やっぱり、私だけが好きで、行き場のない思いを抱えているのはつらかった」
そこまで語ると、カタ、と保健室の入り口の方で音がした。
「…四季くん」
「四季」
四季は、聴いてはいけないものを聴いてしまったような表情でいる。
「──ごめん。僕、いない方がいい?」
「待って、四季!」
忍が四季を引き止める。
「…四季もいて」
四季は戸惑うような表情を見せたが、椅子を引き寄せてくると、涼のとなりにかけた。
「涼に、由貴が好きだったことを話していただけなの」
「忍ちゃんが、今だから話せるって」
「ああ…」
「四季くんは…忍ちゃんが会長のこと好きだったの、知っていたの?」
「…うん」
四季は今でも少し痛いように小さく微笑む。
「──好きになったら…忍が由貴のことを見ていたんだって気づいて、つらかった。忍、由貴にも涼ちゃんにも気持ちをひた隠しにしようとするから、それも見ていてつらかったし」