時は今



「会長のお父さんに相談するのは?」

 涼が提案した。

 忍が不安げに答える。

「逆に高遠さんの気分を逆撫でしないかしら?」

「逆撫でというより…高遠さんはもう忍がどういう行動をとっても攻撃してくると思うんだけど」

 四季が口を開く。

「攻撃をすることで人とのコミュニケーションをとる人なのかもしれない。他にもコミュニケーションの取り方はあっていいはずなんだけど…勝つか負けるかということが高遠さんの生きる上での最大の関心事という感じがするから」

「……」

 四季は意外に高遠雛子のことを冷静に見ている。

 忍はそこまでは考えられない。考えるとまた気分が沈んでしまうような感じがした。

「…ごめん。高遠さんのこと考えていると気持ちが落ち込んじゃう。後でゆっくり考えてもいい?」

 やっとでそれだけを言うと、四季も涼もそれ以上は雛子のことについて話はしなかった。

 四季が衣装の袋を持って来ているのを見て、涼が「…あ」と声をあげる。

「そうだ。衣装作らなきゃ。涼も持って来れば良かった」

「涼ちゃんもここで一緒に作る?」

「うん。…あ、でも」

 涼は四季と忍とを見て、にっこりする。

「涼は会長と作ってくる」

 気を遣ったのだろうか。

 そんなことを言って、涼は行ってしまった。

 四季と忍はふたりきりにされると少し恥ずかしい気分になってしまい、沈黙してしまう。

「…僕、ここで衣装作っていい?」

「うん」

 会話が妙にぎこちなくなってしまう。

 でもそれも針を動かし始めると、言葉のない空間が和みの空間になった。

 四季が黙って針を動かしているのを、忍は横になり、ぼーっと眺める。

「忍、眠っていいよ。起こすから」

「…うん」

 やがて忍はうとうとし始めた。



     *



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