時は今



(忍が俺のこと──)

 由貴は何も考えられず、頭が真っ白になる。

 考えたことはなかった。

 だって──自分の恋愛対象は涼だけだったから。

(嘘だ…)





 もし、それが本当なら。

 四季や忍の抱えていた思いを推し測るに、つらかったであろうことは容易に想像出来た。

 忍が幸せそうな表情をするようになったのは、本当につい最近のことだ。忍だけではなく四季も。

 忍が好きなのは自分だったのだとしたら、どう気持ちの整理をつけたのだろう。

 四季もそれを知っていて、忍のことも──涼や自分のことも守ろうとしてくれたということだろうか。

 白血病だとわかった時でさえ「ドナーが見つかるまでは由貴には言わないで」と言っていた四季である。

(俺に言うわけない)

 言っても、忍の気持ちを受け止められるのでもなければ、意味がないだろう。

 言わなかった、言えなかった四季や忍の気持ちを考えると、由貴も何も言えないような気持ちになってきた。

 器楽室に戻るはずだった由貴は階段に座り込んだ。

 壁に頭をあずける。



「──由貴くん?」

 音楽科の教室を見て回り教官室に戻ろうとする隆史が、由貴の姿を階段に見つける。

「…親父」

「どうしましたか?」

「親父、忍の好きな人が誰だったのか、知っていたの?」

 隆史が真面目な顔になる。

「……。もしかして高遠さんがそのことを?」

「──知ってたんだ」

 由貴が両手で顔を覆う。

「……。こういうの、どうしようもないことなのかもしれないんだけど、凹む」

「……」

「俺、本当に、全然気づいてなかった。忍の気持ち。四季の気持ちにも」

「涼ちゃんもそのことで、傷ついていたようですけど」

「涼も?」

「ええ。涼ちゃんは揺葉さんから直接聞かされたらしいんです。気持ちの整理がついたら涼ちゃんにはずっと話したいと思っていたらしいんですね。四季くんを好きな今だから言える話だと。揺葉さんもひとりで気持ちを抱えていたのはつらかったのかもしれません」



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