時は今
「──そう、か」
由貴はそれきり言葉を発することなく、黙りこくってしまう。
隆史が何となく、由貴の頭に手をやった。
「──。…何?」
「いや、由貴くんの頭がそこにあったもので。つい」
「何それ」
由貴はちょっとだけ笑うと、立ち上がった。
「四季と忍と話してみる。高遠雛子の言葉にいいように振り回されるのもなんだし」
「そうですね」
「高遠雛子、親父は知ってるの?」
「名前とクラスだけは。目立つ子ですから。先ほど吉野さんと高遠さんが言い合いしていたんですが、キツい子ではありますね。吉野さんがめずらしく穏やかではなかったし」
「俺、あの女、嫌い。こういう言い方するのもなんだけど。話せば話すほど嫌いになる人間っているんだね」
「人の言葉は何かしら災いをもたらすものです。話しても必ずしも理解に至れるというわけでもないでしょう」
「俺が理解に至りたいという願望を持っているから疲れるのかな」
「由貴くんはそう思うんですか?」
「どうせなら、理解しあえる部分は理解しあった方がいいんじゃないの。でもあの女、めちゃくちゃ過ぎて、わけがわからない」
「そういうめちゃくちゃを楽しむ人なんじゃないですかねぇ」
「親父、あんな感覚わかるの?」
「わかりません。…というより、彼女、まだ幼いだけなんじゃないでしょうか。傷ついている子供のように見えます」
「…傷ついているのはわかるんだけど。自分が傷ついているからって、人を傷つけるって」
雛子が四季を好きな気持ちだけはバシバシ伝わってくる。痛いくらいに。
あれをもろに受けて接している四季は、精神的には相当来ているだろう。
それでもそんな素振りも見せずに高遠雛子を相手にしているのは偉いと思う。