時は今
「どうぞ」
祈はそれぞれ異なる形のカップを四季と忍と由貴の前に出してきた。
「え?違う飲み物?」
四季の前に置いたカップはココアの香りがする。忍の前に置かれたものはクリームが浮かび、由貴の前に置かれたものはブラック。
「祈さん、好きな飲み物覚えててくれるんだよ」
ありがとう、と言って由貴がカップに口をつけた。
「忍ちゃんのは何となくイメージで作ったんだけど。飲んでみて。それより甘い方が好きなら、四季、交換してあげて」
「うん」
四季が口をつけずに待っていてくれるので忍は一口飲んでみる。
「…美味しい」
コーヒーにミルクとチョコレートの味が混ざっている。
甘すぎるほどではなく、コーヒーの苦味もほんのり残っている。
「美味しい?良かった」
祈がほっとする。
「四季も飲んでみる?」
忍が四季に聞いた。四季はカップを受け取ると、由貴の視線に気づく。
「うん。…由貴も飲んでみる?」
由貴は仏頂面で答えた。
「…いい。ごちそうさま」
忍が笑った。
「ごめん」
「いいよ。四季と忍が仲いいの見て拍子抜けしてるだけ。安心した」
その後の授業は文化祭の準備をしていたため、由貴たちは器楽室で衣装を作り、四季と忍は保健室にずっといたのである。
「私が由貴を好きだった話は…涼から?」
忍が尋ねると、由貴は気の晴れない面持ちで否定した。
「いや…。高遠さんが」
忍はその答えに硬直する。
「高遠さん?どうして?」
「器楽室に涼が戻った時に、智に聞いたらしい。このことは智は気づいてたのかって。それを偶然廊下にいた高遠雛子が立ち聞きしてて」
由貴は、高遠雛子から階段でその話を聞かされたと言った。
忍は頭が痛いように額に手をやる。
「私…由貴も涼も傷つけたくて、その話、したんじゃないのに」
由貴は、そのことはもう気にしていないように、キッパリ言い切った。
「俺は傷ついてない。だから四季も忍も傷つかなくていい。涼もこんなことでうまく行かない雰囲気になるのはって言ってたし」