時は今
四季は優しい表情のまま何も言わない。
由貴は遠慮がちに聞いてみる。
「四季は大丈夫?」
「え?うん。本当はまだ少し複雑なんだけど…。何だろう。うまく言えない」
「……」
「忍も泣いてたけど、僕も泣いてたし。わがままも言ったし。支えてももらったし。ね?」
四季の言葉に忍は「そうね」と答えた。
祈が「忍ちゃん、ちょっと」と忍を呼んだ。
「何ですか?」
「怪我にいいもの」
忍は立ち上がると祈の方へ行ってしまった。
四季と由貴はふたりきりになってしまう。
忍は祈に渡されたものを飲んでみる。祈は小声で言った。
「忍ちゃん、四季と由貴くん、しばらくふたりきりにさせておいた方がいいかも」
「…お父さん」
「忍ちゃんと由貴くんは大丈夫だと思う。でも四季はこういう話、面と向かってされるとつらいよ。話せないわけじゃないんだけど、話してもつらいことを思い出すだけで」
そうかもしれなかった。
もし四季の立場なら──こういうことはわかりやすくひとつの答えが出るというようなものでもない。
綾川由貴を好きだった時の揺葉忍は、四季しか知らない。
由貴が好きだと言って泣いたことも。
「四季に席を外させて忍ちゃんと由貴をふたりきりにしても、四季が余計不安になるかと思って、忍ちゃんを呼んだんだけど」
機転の利く父親である。
「…ありがとうございます」
「人を好きになるって思うより精神力要るよね」
その言葉ひとつに集約される、ひとことでは語ることの出来ない思いがあるような気がした。
「──お父さんも?」
祈は笑顔を見せた。
「忍ちゃんたちとは少し意味が違うかもしれないんだけど。最初、早瀬ちゃんには彼氏がいたしね。早瀬ちゃんのお父さんには怒られるし。…いろいろ」
忍は驚いた。
早瀬に祈とは違う男がいるとは思ってなかった。
「お、お父さん、他の人の彼女、取っちゃったんですか?」
「え?だって、僕、早瀬ちゃん好きになったから。早瀬ちゃんに気持ちを聞いたら僕のこと好きだって言うし。それなら僕の方が早瀬ちゃんを幸せに出来るじゃない?」
悪びれもなく、祈はすっきりとそう言った。