時は今
「忍ちゃんは今は四季のことが好きだと思うんだけど、たとえば、四季が親が認めた相手とつき合っていたとして、四季は忍ちゃんのことが好きだとしたら、どうする?」
「それは…」
「忍ちゃんでも、好きな人が自分を必要としてくれたら、自分がその人を幸せにしたいとは思わない?」
「──思います」
「でしょ?」
ああ、そういうことだったのだ、と忍は理解する。
「私の場合は逆で…四季に好きになってもらって、気づいたら幸せにしてもらっていたから──今度は私が四季を幸せにしたい」
それを聞いて祈が笑った。
「それ、四季に言ってあげて」
ふたりきりにされた四季と由貴は、忍が戻って来ない様子をそれなりに察していた。
「…お父さん、気を遣ってくれたのかな」
そう言って、四季はわずかに疲れた表情を見せた。
「──四季」
「ごめん。ちょっとしんどかった。由貴は悪くないんだけど」
「四季が悪いわけでもないだろう」
「うん…。そうなんだけど。頭ではわかっていても感情が波立つ時ってどうしてもあって…。忍も軽い気持ちで由貴のこと好きになるような子じゃないから、見ていてつらい時もあった。僕が由貴だったらって思うこともあったし」
「……」
「でもそんなことは無理だから、忍の気持ちを受け止めるくらいしか、僕には出来なかったけど」
「──受け止めるくらいって、並大抵のことじゃないだろう」
由貴は低く呟いた。
「俺のことに置きかえて、もし涼が俺ではなくて、たとえば四季に報われない恋でもしているとしたら、俺は受け止められるかわからない。四季にも嫉妬していると思う」
「そうかな。…嫉妬というより、もっと複雑な感情なんだけど。僕には由貴も特別な存在だから」
「……」
「『死にたい』って言った時に、掴んでいてくれた人の手は大きいよ。その人を忍が好きっていうのは、僕にはよくわかったし、同時につらくもあった」
いろいろな模様の心が混在していた。その気持ちを言葉で言い表せということの方が無理だ。
「…何か、ごめん。うまく言えなくて」
悲しいわけでもないのに、涙がこぼれてくる。
四季は涙をはらった。
由貴は困ったように言う。
「よくはわからないけど、四季が俺も忍も大事に思ってることだけはわかった」