時は今
「…簡単に言うとそうだね」
「何かわからないけど、あんまりつらくはならないで」
「うん」
四季が少しだけほっとした表情を見せた。
攻撃的な感情が似合わない人間だ。
いつだったか、黒木恭介が「四季ってまともに怒ったことあるか?」と聞いてきたことがある。それも半ば心配しているように。
恭介が言うには「四季は気が小さいような雰囲気でもないのに、怒っているのを見たことがない」のが不安であるらしい。
由貴が思い返してみても四季は小さい頃からほとんど怒ったためしがない。
美歌や自分は時々機嫌が悪かったりすることがあっても、四季はいつもあの調子というのか、感情を受け止めてくれるところに立っていてくれるのだ。
どうしてなのかは、由貴にはわからない。
人の感情を受け止めるばかりだとつらくはならないのだろうか。
「四季って、怒っているの見たことないけど、何で?」
「…怒るって何に?」
「たとえば病気してる時なんかでも、あれもダメこれもダメって言われて、癇癪起こすわけでもないし、普通、目の前美味しいものあったら、みんなが食べているのに自分だけ食べられなかったら、腹が立たない?」
「…だって、食べられないのは、仕方ないよ」
「そうだけど、何でそこで『美歌も由貴も、食べていいよ』って言えるの?」
「それは美歌と由貴が可愛いからじゃないの」
そこからもう感覚が違う。由貴はため息をついた。
「そうじゃなくて、つらい時に怒ったりすることってないの?」
「怒っても、つらいことはなくならないから」
四季は柔らかく言った。
「痛い時に痛いって言っても、良くなったことは無かったから。かえってそう感じる自分の中の感情が、自分を傷つけていくだけで。感情を波立たせるのは、つらいこともあるよ。だから、つらくならないように気持ちを鎮めようとするのは、変?」
言われてみてわからない感情ではなかった。でも…そうすると、四季の中では「いつも」その感情のサイクルが回っているということだろうか。
考えると、気が遠くなる気がした。