時は今
秋人の笑顔を見ていると雛子も心が和んでくる。
「ね、秋人くん。文化祭、来て。四季くんも秋人くんが来たら喜ぶわ」
「え?…うん」
秋人はハッキリとは返事をしなかった。
「何?──もしかして、妹さん、まだ四季くんのこと好き?」
「…かな。どうだろう。真白、ここのところ勉強に打ち込んでるんだけど…。俺が文化祭行くっていうと、真白がちょっとね。気にしなければいいんだけど」
「妹さん、勉強してるの?」
「うん。学校も輝谷から、双葉に転校したしね。今は理数系。元々ピアノより普通の勉強の方が出来る奴だから、そういう意味では心配していないんだけど」
秋人はそう言って、さっきの話だけど、と戻した。
「高遠さんにキスした男って?」
「え?音楽科よ。クラスメイト。丘野樹。ピアノもかなり上手いわ。俺様だけあって」
「丘野樹?」
驚いたように秋人は訊いた。
「樹が…何で?」
「知らないわ。こっちが聞きたいわよ。あの男、恋愛に興味なさそうだし、私も驚いたわ。ひっぱたいてきたけど」
「……」
秋人は考え込むように手を口元に添えた。
「樹、そんなことする奴じゃないと思うんだけど」
「実際されたから怒ってるのよ」
「…大丈夫かな」
「え?」
「高遠さん、ごめんね。って俺が謝るのも変なんだけど。樹、恋愛に興味がないということではないと思う」
「…そうなの?」
「あいつ、かなりいい家の坊っちゃんなんだよ。本人はそれが嫌みたいなんだけど。プライベートでは言い寄って来る女の子、結構いるみたいで。でも何ていうのか、特定の女の子とつき合うってことがなくて、流される感じでいつも違う女の子といる。本人はどうでもいいって雰囲気なんだけど、でも女の子といるってことは寂しいんじゃないのかなとも思ったりもする。だけど、こんなふうに、高遠さんみたいに『明らかに自分ではない別の男が好き』な女の子には絶対に手は出さなかった。自分から女の子に恋愛的な意味でアプローチするということはなかったから」
初めて耳にする話だった。どちらかというと丘野樹は堅いイメージで、浮いた話もないから、てっきり恋愛に興味がないのだと思っていた。