時は今



「じゃあ…私にそうしたのは…何で?」

 雛子の声がかすれる。秋人は首を振った。

「…わからない」

「……」

「四季もいい家柄の坊っちゃんだし、見た目も四季の方が社交的だから華やかに見えるけど、四季は意外に恋愛では一途だよ。彼女と、そうでない子の距離の取り方もきちんとしてる。樹はそのあたりは不安が残る」

 雛子は四季の言動を思い浮かべてみる。

 確かに、雛子が積極的にアプローチをしても、四季は優しく接してはくれるが、ふたりきりになるような誘いには一度も乗ったことがない。

 ふたりでいてもいいのは揺葉忍だけなのだろうと思う。

 雛子はそれが寂しくもあったが、彼女という存在を大切に扱う四季のことも好きだった。

 それはそれとして、丘野樹。聞けば聞くほど謎が深まる人物のように聞こえる。

 何を考えているのだろうか。

「私…丘野樹のことがわからなくなったわ。今までもわからなかったけど…秋人くんの話を聞く限りでは余計に理解し難い人なんだもの」

 秋人はため息をつく。

「悪い奴じゃないんだけど…。でも樹の方から高遠さんにアクションがあったということは、何かあるんだと思う」

「何かって言われてもわからないもの。文化祭のことしか頭にないだけじゃないの?」

「文化祭のことを考えているならなおさら、高遠さんにそんなことはしないと思うよ。普通に考えたら、そんなことをすれば気まずくなるだけだから」

「言われてみれば、それもそうね」

 雛子にしてはめずらしく殊勝に納得をする。

「ありがとう。秋人くん。話をしていたら、だいぶ頭が整理されたわ。丘野樹には話を聞いてみる。秋人くんに聞いても、秋人くんがあの男の本心までわかるわけではないし」

「その方がいい。…良かった。高遠さんにしてはめずらしく落ち込んでいるみたいだったから」

「それは…落ち込むことくらいはあるわよ。いつまでも落ち込んでいるほど、ジメジメもしてないけど」

「文化祭のこと考えとく。アドレス、知ってたっけ?」

「ううん」

「ちょっと待って」

 秋人は鞄から書くものを取り出すと、アドレスを紙に書いて渡してくれた。

「俺のアドレス。連絡取りたかったら、メールして」



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