時は今
針を動かすことに夢中になっていると、夕刻になっていた。
そろそろ四季を起こさなければと思い──忍は声をかけようとして、やめる。
今この瞬間、この空間だけ、時が止まったような錯覚。
「……」
四季の髪にふれてみた。
ふれた指先から広がる、甘い痛み。わけもなく切なくなるような感情。
愛しいから、だろうか。
撫でていると自分の心の方が落ち着いてくる。
そうしていると、四季が目を覚ました。
「…おはよ」
忍は穏やかに言って手をとめる。四季はそのまま忍を見つめる。
「目が覚めたら忍が見てるってドキドキするんだけど」
「そうなの?髪撫でているのって気持ちいい」
「……。忍、大丈夫?」
「ん?」
「昨日。無理させなかった?」
忍は微笑んだ。
「大丈夫」
四季に大事にされていた時間。一夜明けてみると、普段とかわりのない日常があって──雛子とのことは別としてだが──昨日のことが夢だったのではないかとも感じられた。
でも、身体が四季のことを覚えている。
「四季のこと思い出したら、唇の傷のこと忘れちゃうみたい」
「……」
「本当よ」
四季が照れたように言葉を探す。忍はクスクス笑った。
「四季も、由貴なんかもう気にしないで。私が言うのも変なんだけど。私が今好きなのは四季なのに、四季が私の過去のことで胸を痛めているのはつらい」
「……」
「私、昨日四季に大事にされていて、幸せだったの。いろいろなことを含めて四季のそばにいてもいいって、四季自身に言ってもらっている気がして、ほっとしたの」
静和とのことも、由貴を好きだったことも、母親のことも。
受けとめてくれたのは四季だけだ。